診察の流れについて
漢方医学と言えば、一般的に症候による対症療法だと思われている向きもありますが、漢方医学もまた証という病因論に基づいて、病理的状態(気の変化・アンバランス)の修正を考える一個のちゃんとした治療法なのです。診断法としては四診法と言って、望・聞・問・切があり、それぞれ視診、聴診、問診、触診に相当します。
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望診(視診)
これは患者さんが治療室に入ってこられた時から始まっています。主に表情・色・形・態度などを観察します。例えば表情に生気が無いとか無表情、顔を蹙める、あるいは血色が悪いなど色艶の有無などを観察します。また肥満、るい痩、姿勢、身長など、また歩行の仕方、麻痺の有無、動作が緩慢か敏活か、指先の振るえなど、注意すれば様々な状態像が観察されます。要するに全身的な状態像の把握が大切となり、
この印象像は意外に人間の頭脳の中にイメージとして残るため、数日から数週間後の再診のとき、漢方治療の効果判定に大切な意味をもっています。
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聞診(聴診)
これは現代の聴診器を用いての聴診とは意味が異なります。患者さんの声の状態や話し方、それに体臭などを診察していきます。たとえば簡単に表すと、寒証の人は一般にあまり話したがらないと言われてますし、熱証の人は一般によく話したがります。また虚証の人は声が微かで、話がとぎれやすく、実証の人は言語がはっきりして、声が大きいと言われています。また臭いを嗅ぎ分けるのも聞診の中に含まれていますが、口臭は歯槽膿漏とか、一般的に胃が悪いと言われていますし、代弁や小便などの排泄物については、まずそこまで我々治療家が観察することはありませんが、身体に熱があるとよく臭うものです。以前に尿療法というのが話題になったことがありますが、小便を味わって診断に役立てる方法が遊牧民の獣医師等の間で行われているとかいうのを聞いたことがありますが、お母さんが子供の鳴き声や排便の状態を見て病気を察知するのも聞診と言えます。
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問診
主に食欲・睡眠・便通や女性であれば月経の状態なども含め、患者さんの病気の状態を聞き取る診察法です。一般的には主訴、現症、既往症、家族歴などの順に問診して行きます。問診は主訴だけでなくこれを取り巻く様々な日常的症状を汲み取ることで、証の決定に大きく役立ちます。そのため現代医学的に見れば取るに足らないような症状も、それなりの意味をもってくることがあります。
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切診(触診)
これは実際に身体を触っての診察法ですが、これには脉診や腹診も含まれ、体表の状態を観察していく診察法です。いずれも鍼灸においては最も重要とされています。
私は視覚に障害がありますから、四診法で言うと聞診以外は実際に患者さんの身体に触れながら様々な情報をキャッチして、診断から治療へと結びつけています。私にとっては、指先が眼の代わりということです。因みに私は外出すると手引きをしていただくことも多のですが、初めての方でも腕を握っただけでその人の骨格・肉付き・姿勢などは勿論ですが、生活環境や普段の身体の癖をズバリ言い当てて驚かせてしまったことがあります。でもこれは特殊な能力でもなんでもありません。毎日のように人の身体を観察していると自然と分かるようになるものなのです。同業者の方にはそういう方が少なからずおられるのではないでしょうか。
私たちは五体に感じるすべての情報を、これら四診法によって様々な角度から経絡、即ち12本のエネルギーの変動として観察し、適切な証(治療目標)を決定し、そうして治療を進めて行くのです。
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